合宿のあとで...(ラブ&LOVE)
この物語は、都合によりフィクションです。
登場する人物・地名・団体名は、実際のものとは多少しか関係がありません。

合宿のあとで...(ラブ&LOVE)

1998年8月23日 07:00...
産業道路を緑のRV車で走り抜ける夫婦がいた。
「いや〜、2日間ご苦労さま。疲れたね。」
この週末、E社のバレーボール部合宿に参加し、その帰途をたどっている最中である。
2日間の合宿の疲れはかなり辛く、この夫婦に関しても、かなりの筋肉痛を抱えていた。
その晩、明日まで筋肉痛を残さないため、薬局で「ラブ」という薬を購入した。
家につくと、昼間に流れ出た汗と疲れを癒すため、風呂のスイッチをいち早く付けた。
「う〜ん、何々、風呂上がりにつけると効果的か...」
旦那の方は、この「ラブ」という薬を服用するのは始めてである。
「あんた、とっとと風呂に入っちゃいなさい。」
台所で妻の声が聞こえる。

風呂に入り、疲れを洗い流した後、痛みを和らげるために薬に手をかけた。
その頃、既に妻も風呂から上がったところである。
「さて、適量を患部に塗り付けるのか。」
説明書通り、肩から腕に掛けて適量を塗りつける。
最初は、結構気持ちよい心地に満足していたが、少し経つと耐え切れぬ痛みに襲われる。
「あたたたたたたたたたた!!」
これはきつい!!
その声を聞きつけた妻は、何が起こったのかびっくりして旦那がいる居間に駆けつけた。
「いったい、どうしたの?」
「い、い、いや、その薬が...いててて..あの、あたた...」
旦那の話は、痛みのせいか通じない。
「この薬かい?何々、ブツブツブツ...」
妻は、その説明書に目をやると、それを読み出し、しばらくすると痛みで悶えている旦那
の方にゆっくりを目をむけた。
その顔には、何ともいえない笑みが浮かんでいた。
「あんた、そんなにこの薬が効いているのかい?」
ニタニタと奇妙な笑いを浮かべながら、旦那に問合す。
旦那は、悶えながらもコクリとうなずいた。
その瞬間、妻は薬を適量右手につけ、旦那に猛突進してきた。
その行動を察知した旦那は、すっくと立ちあがり妻を「うっちゃり」気味にかわす。
かわされた妻は、そのまま旦那の背後を取った。
「し、しまった!!」
そう、この体制は、いつもであればバックドロップ※1か、コブラツイスト※2の体制
である。
しかし、今日の妻の行動は違っていた。
先ほど薬を取った右手を、大きく振りかぶり、旦那の背中に打ち下ろす。
「ピシャ!!」
「うがああああああああ〜」
旦那の悲鳴がこだまする。
妻は、その手を放さずに、そのまま患部に塗りつける。
先ほど縫った薬の効果も消えぬうちに、またも塗り付けられた旦那は、先ほど背中をたた
かれた痛みと別に、再度あの染みる感覚をおぼえた。
「うあああああああ〜。」
悶える旦那を尻目に、妻は腹を抱えて笑いこける。
「ひっ〜ひっひっひ。」
妻のほうも声になっていない。
悶え苦しんでいる旦那は、その痛みをこらえて、薬を手にし、適量を取ると、今度は逆に
妻に襲いかかる。
「こ、こ、このやろう!!おまえも同じ苦しみを味わえ〜!!」
妻の背中に手を振り下ろす。
「ピシャ!!」
「ひや〜」
今度は、妻の晩である。
旦那と同じく、恐ろしいほど染みる痛みを感じ取った。
「ひえ〜!!」
「うおおおおお〜!!」
旦那、妻とも居間で転がり悶えまくる。

しばらくすると、双方ともいたみが消えて、心地よい感覚に体が包まれる。
その感覚とは別に、攻撃をされた悔しさに、旦那、妻とも好戦的になっていた。
二人は、お互いに薬を右手に適量つけると、にらみ合って火花を散らす。
第2ラウンド開始である。
まず先手は、妻であった。
妻は恐ろしい速さで旦那に飛びつく。
旦那は、狭い廊下にみを委ねていたため、先ほどのようにかわすことが出来ない。
旦那は、その廊下を玄関に向かって逃げる。
旦那は、後ろから迫る妻を避けようと、玄関ドアに足を掛けて急旋回することを決意
した。
しかし、旦那は自分が風呂上がりだったことをすっかり忘れており、足が水でぬれて
いることに気がつかなかった。
旦那の頭の中には、急旋回した自分が妻のバックを取り、思いっきり背中に薬をぬり
つけられた妻が悶えるシーンがあった。
とうとう玄関ドアが目の前に迫る。
旦那は、玄関ドアに足を掛けた。
本来ならば、その足が玄関ドアにヒットして急旋回が成功するはずであった。
しかし、足がぬれていたため、玄関ドアにかかった足は、滑ってそのまま地面に叩き
付けられた。
ちょうど、踵落し※3が空振りに終わり、その足が地面をえぐったような状況になった。
「うがあああああああああああ〜。」
旦那の叫びが、またもこだまする。
それをみながら、妻はこけている旦那の背中に薬を塗りつけた。
「ひやーーーーーーー!!」
2連コンボ炸裂である。
またしても旦那は痛さで転がりまくる。
妻も、先ほどとまったく同じように転がりまくる。
その時奇跡が起こった。
旦那が準備した薬を塗った手の平に、ちょうど妻の背中があたった。
旦那は、いたみながらもその当たった手のひらを妻の背中にこすり付けた。
「ひげーーーーーーー!!」
薬を塗られた妻も、旦那と同じように転がりまくる。

しばらくして、二人ともいたみが消えて、心地よい感覚に包まれた。
ほっとした二人は、すっくと立ちあがると、卒然しゃべり始める。
旦那:「いや〜、こんなに染みるとは思わなかったよ。」
妻 :「そうね〜、でも、もう分かったから、次は大丈夫ね。」
旦那:「それにしても、おれたちって、「ラブ」を塗ってLOVELOVEだね。」
妻 :「つまんないこと言うな!!」(バシッ!!)
旦那、妻:「失礼致しました。」
誰に対して行った漫才かは誰にも分からない。

しかし、その日しばらくの間ウイーブ浦和402号室から怪しい雄叫びが近所にこだ
ましていたそうである。

---終---

※1バックドロップ
  背後から、腰に手を回し、そのまま後ろに投げて、脳天を地面にたたきつける技。
  投げる瞬間、手を放して投げることを、「投げっぱなしバックドロップ」という。
※2コブラツイスト
  背後から、自分の右足を相手の右足に絡め、相手の上半身を左に折り曲げ、相
  手の右脇から自分の左脇と頭を出して相手を締め付ける技。
  決まった形が、ちょうどヘビが獲物を捕らえ締め付けているような体型になるため
  この名前がつけられたと思われる。
  現国会議員の「アントニオ猪木」氏の必殺技である。
※踵落し
  片足を頭上まで持ち上げ、そのまま相手の脳天に足の踵を振り下ろす、韓国のテコ
  ンドーの技の一つ。
  K1グランプリで有名な、アンディー・フグ選手の得意技。